商品を製品化するためには、強度や破壊、振動特性などの性能を評価しなければなりません。従来においては、性能を評価するために試作品が使われていましたが、現在はCAE解析によってバーチャル上で試験を実施できるようになっています。
実際に利用すれば、さまざまなメリットを獲得できるため、製品開発に携わる担当者の中には、CAE解析について把握しておきたいという方もいるのではないでしょうか。
今回は、CAE解析の基本概要や種類、メリットや活用事例について解説しますので、興味のある方はぜひチェックしてください。
CAEとは?基本概要を知る
『CAE』とは、Computer Aided Engineeringの略称で、コンピューターを用いたシミュレーション及び解析のことです。具体的には、バーチャル上で擬似的な試作品を使い強度や振動特性、温度分布などの製品性能評価を解析します。
例えば、自社ブランドの椅子を製品化するとき、その椅子の安全性を保障することが必要です。お客さんが購入後、座ったら脚が折れて大怪我をしたという事故が発生すると販売元の責任は重大になります。また、安全性だけでなく、椅子にはデザイン性も大切です。鉄で制作すれば、壊れる心配はありませんが、デザイン性に欠けるため多くの人に購入してもらうことができません。
CAE解析を利用すれば、バーチャル上でデザイン性を考慮しながら安全な椅子を評価することができます。「椅子の一部分に応力が集中する場合、分散させる」、「脚が変形したときは太くする」というような変更を試作前に行うことができるのです。今回、わかりやすく説明するために椅子を例に挙げましたが、CAE解析はインプラント強度解析、自動車金属パーツの耐久性など幅広い業態で導入されています。
CADと何が違うの?
CADとは、コンピューターを用いて設計図面を制作するためのツールです。2Dや3Dの設計を作成して施工を見える化し、設計プロセスの開発や修正に役立てられます。ランドスケープ設計やオフィス・ビル設計など、さまざまな分野で広く使われているツールです。
CADとCAE、両者の主な違いとして用途、使われるフェーズの2点が挙げられます。
違い |
CAD |
CAE |
用途 |
製品の視覚化 |
製品性能の評価 |
使われるフェーズ |
設計 |
設計後の設計評価 |
そもそも用途が違うため、目的や使うところのフェーズなどが異なります。両者は製品開発プロセスの中に組み込まれることが多いですが、別物といえるでしょう。
CAE解析の代表的な4つの種類
CAE解析の代表的な種類は下記の4つです。
- 構造解析
- 振動モード解析
- 座屈解析
- 熱伝導解析
それぞれの種類について詳しく解説します。
構造解析
構造解析とは、製品に対して一定の重みを加えたときに構造物のひずみ、変位、応力を明らかにすることです。変形を確認したり、力学性状を把握したりする目的で使われます。身近な例としては、建物が挙げられるでしょう。例えば、地震が発生したときに構造上、力が集中する部分や揺れ具合などを試すときに用いられます。
振動モード解析
外部から振動を受けたときの共振に対してどのぐらい影響を受けるかを明らかにします。テニスラケットやゴルフクラブなど、振動が発生しやすい製品などに用いられることも多いです。
座屈解析
床に対する設置面積が少ない、いわゆる細長い部材に重みをかけた場合の変形具合を明らかにします。机や椅子などは細い脚で支えられていますが、そのような製品が対象です。
熱伝導解析
一定の熱を加えて構造物の変形や応力を明らかにする解析方法です。これにより、製品内部温度分布を把握できたり、冷却構造設計によって製品の小型化・軽量化を実現できたりします。
CAE解析を利用する3つのメリット
CAE解析を利用することで得られるメリットは大まかにわけて3つあります。
時間・労力・コストを削減
1つ目のメリットは、時間や労力、コストを削減することができる点です。
CAE解析を利用しない場合、材料を加工して試作品を作成しなければなりません。1回目の試験で高評価を得ることができ、何も変更箇所が見当たらない場合、製品化までスムーズに進むことができるかもしれません。しかし、そのようなケースは稀といえるでしょう。基本的には、評価後に修正点が見つかり、設計を変更して新たに試作品を作成する必要があります。そして、再試験・再評価を繰り返さなければなりません。設計変更が生じるため、何回も試作品を作らなければならず、工数が増大します。同時に、材料のコストや人件費がかかることは容易に想定できるでしょう。
一方、CAE解析を利用するケースでは、下記の3つの工程を削減することができます。
- 試作再作成
- 再試験
- 再評価
試作を作る前の段階で性能を評価することができるため、バーチャル上で修正点を見つけて設計変更ができます。その後に試作品を作成して実験を行うため、試作回数を大幅に減らすことが可能です。これにより、工数や人件費の削減を実現できるため、企業にとって大きなメリットになります。
実験環境を構築してシミュレーションできる
2つ目のメリットは、実験環境の構築が自由自在であるという点です。
CAE解析を利用することでさまざまな実験環境をバーチャル上で構築できます。例えば、日本では作り出せないカルフォルニア州デスヴァレーのような高温環境を作り出せたり、最大風速が105ノット以上を記録する猛烈な台風が横断する状況を作ったりすることが可能です。バーチャル上で自由自在に実験環境を構築してシミュレーションできるため、同時にコスト削減なども期待できるでしょう。
製品の品質向上
3つ目のメリットは、品質向上に一役買ってくれるという点です。
CAE解析では、領域を分割した要素単位で理論式に当てはめて構造物全体を組み合わせる有限要素法などの特殊な計算方法を用いて性能をシミュレーションします。実測困難な挙動を確認することができるため、品質向上に役立てられるのです。
実際に、熱伝導解析を使うことで冷却構造設計を適応しやすく、小型化などを実現できるなど、CAE解析による品質向上の役割は非常に大きいといえます。
CAE解析にもデメリットがあるの?
CAE解析のデメリットは下記の2点です。
技術者が必要
CAE解析を利用するためには、技術者が必要です。解析ソフトを利用する場合でもプリポロセッサやソルバー、ポストプロセッサなどの知識が必須になります。そのため、企業によってはそれらの知識を一から学んだり、エンジニアを雇用したりしなければなりません。
シミュレーションと実物で結果が同じなるとは限らない
シミュレーションと実物では、試験の結果が異なるケースもあります。精度は高いですが、あくまでもシミュレーション結果になるため、すべての製品で実物と同じ結果を得られるわけではありません。
CAE解析の活用事例について
CAE解析はどのような分野で実際に活用されているか知っておきたいという方も少なくないでしょう。CAE解析の活用事例を3点ご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
プラスチック容器の強度評価
プラスチック容器の強度を評価するため、CAE解析が行われます。具体的には、搬送・輸送時の耐久性です。圧縮試験は、コストや時間がかかりますが、静止流体要素を使った非線形座屈解析を用いることで、バーチャル上で輸送時の耐久性を評価することができます。
スマートフォンの落下解析
スマートフォンの落下解析にCAE解析が用いられます。人の手から地面に落下したとき、どの部分を中心に衝撃力が加わるのかを色で確認することが可能です。スマートフォンの作成には当然コストがかかっており、高価な端末ですが、CAE解析を行うことで大幅に費用を削減できます。
ヘルメットに加わる衝撃を解析
衝撃によりヘルメットの変形具合や破壊の挙動を評価するためにCAE解析は使われています。ヘルメットと人体のダミーをモデル化し、衝突させたときの状態を変形図で確認することが可能です。実物のヘルメットの試験は人を使うことが難しいですが、CAE解析ならバーチャル上で衝突したときの状況を容易に作り出すことができます。
まとめ
今回は、CAE解析の概要やメリット・デメリット、活用事例について詳しく解析しました。
CAE解析を利用すれば、試作の前にバーチャル上で製品の性能を評価することができるので、非常に便利です。再試作、再評価の工程を削減できるだけでなく、コストや労力も減らすことができます。実物実験に大きな負担を感じている方は、ぜひCAE解析ソフトの導入をご検討ください。